近年、老後の生活に不安を抱える人が多くなり、株式投資やFX、積立NISAなどの資産運用を始める人が増えてきました。中でも、継続的に安定した収入や節税対策、年金効果などが期待できることから不動産投資が注目され、会社員として働きながら賃貸経営をする「サラリーマン大家さん」が増えています。
ですが、賃貸経営を始めた人が全員成功するわけではありません。中には失敗してしまった人がいるのも事実です。そのため、今回は失敗しないために必要な知識である、賃貸利益の意味や計算方法について説明します。
目次
「賃貸利益」とは、賃貸経営における家賃や更新料などの収入から、税金や管理費などの諸経費を差し引いた手元に残るお金のことです。この賃貸利益は、賃貸収入から諸経費を差し引くことで算出することができます。
賃貸利益と賃貸収入では意味が異なるため、その違いについてより詳しく説明します。
「賃貸収入」とは、「賃貸経営によって得られた売上」です。一般的に家賃収入と言われることが多いです。
次に「賃貸利益」とは、「売上から諸経費を差し引いた利益」です。これらを給与で例えると、「賃貸収入は総支給額」で「賃貸利益は税金などを控除した手取額」となります。
以下は代表的な収入と諸経費の種類になります。
賃貸収入は一般的に、家賃や礼金、更新料、駐車(輪)場代などが含まれ、賃貸利益の諸経費には建物の管理費や水道光熱費などが含まれます。
それぞれどの程度の費用が発生するのかは実際に賃貸経営を始めないと分からないものもありますが、「管理委託費」については家賃の5%程が一般的な相場とされています。
以上のことから、賃貸収入がどんなに多かったとしても、費用などの支出が増えるほど賃貸利益は減ってしまいます。そのため、賃貸経営を始める際は賃貸収入ではなく賃貸利益に重点を置くことが大切になります。
賃貸利益の計算を知ることで、賃貸経営を始める前におおよその賃貸利益を想定することができます。計算方法は先ほども説明しましたが、「年間賃貸収入 - 諸経費」で算出することが出来ます。
年間賃貸収入100万円、年間諸経費30万円の場合、以下のような計算になります。
100万円 - 30万円 = 70万円
この場合、賃貸利益は70万円となります。
「賃貸収入ではなく賃貸利益に重点を置くことが大切」と説明しましたが、賃貸経営を考えるうえで重要な指標となる「利回り」にも同様のことが言えます。一般的に、不動産業者から提示される物件の利回りは賃貸収入から算出された表面利回りであることが多いため、最初は高利回りの物件に見えても、実は年間の諸経費が高く賃貸利益が少ない可能性があるので注意しましょう。
物件購入費用5,000万円、表面利回り20%、年間諸経費500万円の場合、以下のような計算になります。
賃貸収入:1,000万円(物件購入費用の20%)
1,000万円 - 500万円 = 500万円
この場合、賃貸利益は500万円となります。
こちらは極端な例ですが、諸経費を考慮しないと想定よりも得られる賃貸利益が大幅に少ない金額となってしまいます。諸経費がどの程度なのかを考えて、賃貸利益を算出することが大切です。
前述では諸経費のみを考慮し、利回りから賃貸収入と賃貸利益を算出しましたが一般的な不動産業者から提示される物件の利回りは満室を想定した利回り(想定利回り)であることが多いです。より具体的な賃貸利益を想定するためには、空室率と運営比率を考慮して計算する必要があります。
そのため、ここからは実際に空室率や運営比率の平均値を用いて、より具体的な賃貸利益を計算していきましょう。
具体的な賃貸利益を想定するためには、空室率と運営比率を計算する必要があります。
空室率は物件の合計部屋数に対する空室の割合のことで、次のように計算します。
空室率 = 空室数 ÷ 物件の合計部屋数 × 100
例えば、物件の合計部屋数20部屋の物件で空室が3室の場合は、次のようになります。
3 ÷ 20 × 100 = 15
上記の計算から空室率は15%だとわかります。
※こちらの計算式は1年間の空室を想定した計算式となります。空室日数も考慮する場合、別の計算式で算出する必要があります。
また、株式会社タスが公開している「賃貸住宅市場レポート」によると2019年7月時点の東京全域の空室率は13.03%となっています。
出典:株式会社タス(分析)「賃貸住宅市場レポート 首都圏版 関西圏・中京圏・福岡県版 2019年9月」 <https://fo-pro.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/files/5ebe20f53b01c45667ef3a77/首都圏版_関西圏・中京圏・福岡県版_2019年9月.pdf>
運営比率とは、満室時の賃貸収入に対して年間で支出した運営費の割合になり、また運営費とは諸経費を含めた不動産を運営するために支出した費用のことです。
例えば、年間1,000万円の賃貸収入がある物件で、年間の運営費用が250万円の場合は、次のようになります。
250万円 ÷ 1,000万円 × 100 = 25
上記の計算から運営比率は25%だとわかります。
また、全国の管理会社から提供された、実際の管理物件データを基に分析した「第7回 全国賃貸住宅実態調査」によると、東京23区の運営比率は単身用物件で23.54%、ファミリー用物件で18.06%となっております。
出典:2019年版 全国賃貸住宅実態調査 報告書(IREM JAPAN / 日本賃貸旧宅管理協会 / LIFULL)< https://irem-japan.org/cgi-bin/download/download.cgi?name=2019noi&type=pdf >
運営比率が低いほど、少ない費用で賃貸経営を行えていることになります。しかし、運営比率が低すぎると適切な管理や修繕が行われていない可能性がありますので、運営比率だけで判断せず、運営費の内訳をしっかり調べましょう。
NOI率とは、満室時の年間賃貸収入から空室により未収入となった賃料と運営費などを差し引いた収入の割合のことです。満室時の年間賃貸収入を100%として、空室率と運営比率を差し引くことで算出することができます。
例えば、前述で計算した空室率15%と運営比率25%を元にNOI率を算出すると、次のようになります。
100% - 15% - 25% = 60%
上記の計算からNOI率は60%だとわかります。
NOI は Net Operating Income の略語で営業純利益を意味します。不動産業界では一般的な用語となっており、「ネットはどれくらい?」などの表現で会話します。
それではNOI率を用いて、より具体的な賃貸利益を計算してみましょう。諸経費や空室、運営比率を考慮した利回りのことを「NOI利回り」(実質利回り)といいます。NOI利回りを活用することで、具体的な賃貸利益を算出することができます。
物件購入価格 × NOI利回り
上記計算により具体的な年間の賃貸利益を計算することができます。
NOI利回り = 想定利回り × NOI率
以下条件の年間賃貸利益を計算してみます。
条件:
物件の購入費用(物件価格+初期費用)が1億5,000万円、諸経費400万円、一部屋の賃料6万円、合計部屋数20部屋、空室数3室を想定した場合
空室率と運営比率を考慮した場合の年間賃貸利益は825万円となります。
手順2で算出し想定面利回り9.6%で年間賃貸利益を計算した場合、1440万円となりますので、差額は615万円となります。このように想定していた賃貸利益よりも大幅に少ないというようなことがないように、なるべく具体的な賃貸利益を算出できるようにしておきましょう。
以下の記事では簡単な計算式でNOI利回りを算出する方法を紹介しております。
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最後に諸経費や諸費用の代表的なものを紹介します。
固定資産税・管理委託費用・修繕金・水道光熱費・仲介手数料など
上記には、減価償却費や建物のローンの利息を記載していませんが、確定申告時には不動産所得上の経費として計上することができ、節税対策になります。
不動産取得税・印紙税・登録免許税・登記費用など
諸費用は主に不動産購入時の初期費用として発生するもので、購入した年以降は発生しません。
ここまで、賃貸利益と賃貸収入の違いから賃貸利益の計算方法、諸経費などについて説明しましたが、重要なポイントは以下の4つです。
賃貸経営を始めるときに、賃貸利益ではなく賃貸収入を見て判断してしまうことがあります。ですが、より大事なものは賃貸収入ではなく賃貸利益になります。
賃貸利益の計算は複雑な部分もあり、初めて賃貸経営を考える方からすると難しく感じてしまうかもしれませんが、最初から細かく計算する必要はありません。まずは想定できる諸経費から賃貸利益を計算してみてはいかがでしょうか。
少しずつ実際に発生する諸経費と諸費用を調べ、より具体的な賃貸利益の計算ができれば、賃貸経営を成功させられる可能性が高くなるでしょう。